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横浜地方裁判所 昭和54年(行ウ)13号 判決 1982年5月27日

原告

西田経介

被告

横浜市交通事業管理者鶴見俊一

右訴訟代理人

増田次則

綿引幹男

主文

一  被告が原告に対し、昭和五四年五月八日付でなした免職処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因事実1、2は当事者間に争いがない。

二抗弁(本件処分の理由)について。

1  無届欠勤及び出勤命令違反の有無

(一)  <証拠>によれば、原告が昭和五二年九月二七日から昭和五四年五月八日までの間、被告からの文書による三回の、また、上司からの口頭による数回の各出勤命令に反して、正規の届出手続を履践せずに欠勤(以下「本件欠勤」という。)した事実が認められる。

(二)  <証拠>によれば、横浜市の交通局乗合自動車車掌、運転手服務規程第一〇条には「車掌、運転手は欠勤しようとするときは、事前に所属長に届出なければならない。」との規定のあることが認められ、また、地公法第三二条には「職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」との規定があるので、本件欠勤はこれらに違反する欠勤であるといわねばならない。

2  再抗弁(裁量権濫用の主弾)について。

(一)  原告が昭和五二年六月末日付で組合を脱退し非組合員となつたこと、同年七月一八日、鶴居所長からバス乗務をはずされ代務を命ぜられたこと、同所長は、原告に対し、同年八月四日、同月八日からバス乗務される旨回答したが、同日になつても原告をバス乗務に就かせず引続き代務を命じたこと、その後も原告の再三にわたる要求にもかかわらず原告にバス乗務をさせなかつたこと、同月八日に抗議行動をした組合役員が処分を受けなかつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  <証拠>を総合すると、原告は、昭和五〇年ころから、自己が所属していた組合の緑支部の役員との間で、終車時間延長の問題、労働金庫への積立金の問題、職場委員選任の問題等につき意見の対立を生じ、前記のとおり昭和五二年六月末日、組合を脱退したこと、これに対し、組合は、同年七月一六日、鶴居所長に対して、非組合員となつた原告をバス乗務員として平常どおり勤務されるならば組合としては毎日抗議行動を行い、今後一切被告に協力せず、ダイヤ委員会からの委員の引上げ、いわゆる三六協定の改定時における破棄等の措置をとる旨申入れたこと、右申入れに困惑した同所長は、同月一八日、前記のとおり原告に対して、今後バス乗務されることはできない旨通告し代務を命じたこと、原告はいつたん右命令に従い、行路表書換作業やポール運び作業等の代務に従事したものの、右措置に納得できず、横浜市交通局管理課長宛に乗務させない理由を説明するよう求めたところ、同年八月四日、鶴居所長より、前記のとおり、同月八日からバス乗務させる旨の回答があつたこと、ところが、同日早朝、原告が緑営業所に出勤したところ、原告のバス乗務を知つた組合役員数名が、仕事を放棄して所長席前に座り込むなどの抗議行動をなし、そのために欠車が出てバス利用者から苦情電話がしきりにかかつてくる異常な状態が生じたこと、この事態に困惑した同所長は、原告にバス乗務させることをあきらめ、再び代務を命じたため、これにより右組合役員らも抗議行動を中止したこと、以後、原告は同月一二日まで代務に従事したが、同月一三日以降はこの措置に納得せず本件処分時に至るまで勤務に就かなかつたこと、しかし、原告は、この間も時々緑営業所に出頭し、上司にバス乗務を要求し、上司からは欠勤するのであれば届出をするよう指示されたが、これに従わなかつたこと、また、同年九月下旬ころには事態打開のため同所長のあつせんによる和解交渉が行われこれに出席したこと、原告は、昭和五三年五月、六月、七月、一一月ころ交通管理課長、労務課長、自動車部長らに呼ばれて代務につくよう説得され、また、同年四月、七月、一二月に被告から書面による出勤命令を受けたが、これに応じなかつたこと、被告は、この間、原告の便宜のため昭和五二年九月二六日までを有給休暇扱いとしたが、同日で有給休暇を使い切つてしまつたため、同月二七日以降は欠勤扱いとしたこと、そして、前記のとおり昭和五四年五月八日、本件処分がなされたこと、以上の事実が認められる。

(三) 右(一)(二)の事実によれば、原告の本件欠勤及び出勤命令拒否は、鶴居所長が原告にバス乗務をさせず代務を命じたことに由来するものというべきところ、右措置は、同所長が、非組合員である原告を組織防衛上バス乗務から排除しようとする組合の威力に屈してなされたものと認められる。しかるに、地方公営企業法第三六条、地方公営労働関係法第五条第一項には、地方公営企業の職員は「労働組合を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。」と定められているのであるから、非組合員であるために解雇されたり、特定の業務から排除されるが如きは許されず、これをねじ曲げようとする組合の意図及びそれに基づく行動に屈してとられた鶴居所長の前記措置は、右法の趣旨に反するものといわねばならない。したがつて、同所長としては、組合のかかる意図に基づく前記抗議行動によつて、バスの正常な運行が阻害されるなど職場秩序紊乱行為があつたとすればこれに対し毅然たる態度で対処すべきであつたのであり、原告に対してのみ一方的に不利益を課したことは均衡を失した不当な取扱いであつたといわざるを得ない。また、本件欠勤は形式的には無届欠勤であるが、欠勤の期間中、原告がしばしば緑営業所に出頭し、和解交渉に臨み、あるいは、再三にわたつてバス乗務をさせるように求めていたことは前記のとおりであり、更に、バス乗務員である原告が非組合員であるが故に、組合の妨害行為によつて、バス乗務ができず、組合に再加入しない限り、出勤しても上司から代務を命ぜられるに過ぎない状況にあつたというのであるから、かかる場合における欠勤は、無届のため職場の秩序に混乱を生じさせる一般の欠勤とはその性質が異なるものと解さざるをえない。そこで、以上認定の本件欠勤の原因、性質、本件処分に至る経緯等を総合勘案すると、本件欠勤が異常に長期のものであることを考慮に入れても、被告がこれにつき懲戒免職という重い処分をもつてのぞんだのは苛酷に過ぎ、裁量権の範囲を著しく逸脱し濫用した違法なものであつたというべきである。<以下、省略>

(三井哲夫 吉崎直弥 嘉村孝)

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